「受験してみようかなと思う。」
「受験させることにした。」

ある日、息子と夫からそう告げられた。休日に父子二人で入塾テストを受けてまわっていたのは知っていたが、知らぬふりをしていた。じっと座ることが苦手で、先生の話も真面目に聞けない、宿題もそこそこにゲームばかりしているような息子である。中学受験だなんて埒外もいいところだ。

そんな私の思惑に反して、息子は名進研に通い続け、気が付けば受験の山場ともいえる六年生の夏を終えていた。とはいえ、息子の態度は相変わらずで、塾の授業中に居眠りをし、宿題の提出はしない、勉強したと嘘をついてゲームをする、分からない問題を誤魔化す、先生に質問をしない等々、とてもトップ校を志望している受験生の態度ではなかった。であるからして当然、成績の方も芳しくなく、プレ中での偏差値は52~56の間を行ったり来たりという有り様。勉強態度への苦言は元より、志望校の変更すら、本人と話し合いたくても、プチ反抗期のせいか、うるさいと吐き捨てるか、全くのだんまりであった。

そんな状況であったため、十一月の東海プレはそもそも受けもせず、一応受けさせた滝中プレの結果はもちろん散々。平均点にも届かず、合格判定は20%未満。いよいよ全落ちも覚悟しておかねばと思い始めた。

息子の態度が急に変わったのは年明けだっただろうか。突然「東海中を受けたい。」と言ってきたのだ。息子から強くはっきりと希望を伝えられたのは初めてのことだったので、ひどく驚いてしまった。慌てて塾の先生に連絡を取り、学校の先生に調査書を依頼し、願書の準備をした。受験日まで残り一ヵ月。息子は何かに取りつかれたかのように勉強をしだし、毎日夜遅くまで塾で自習をしてくるようになった。どこかで「一度火が付くとすごい力を発揮する子もいる」という言葉を耳にしたことがあったが、まさにその通りで、目を疑うばかりの変貌ぶりであった。

その勢いをおとろえさせぬまま本番に突入。幸い、どの試験日も体調は良好。無事に愛工大名電中、名古屋中ともに合格できたので、当初予定していた南山男子ではなく東海中を受験できることに。しかし、結果は東海中、滝中ともに不合格。今まで聞いたことのないような声で泣きわめく息子の姿は、今思い出しても胸が痛む。

泣くだけ泣いた息子は、中学の勉強を始めた。以前の息子ではとてもじゃないが考えられない。自ら机に向かう姿を頼もしく思った。そんな姿を神様は見ていてくれたのだろうか、数日後に東海中から一本の電話が。そう、繰り上げ合格の知らせだった。
名進研の先生からは「大逆転ですね‼」と喜んでいただいた。本当に大逆転だ。受験校リストから外されていたのをひっくり返し、不合格をひっくり返し、まさに大大逆転だ。ギリギリではあったけれど、最後には自分自身で「東海中を受験したい」と心から思えたことが、一番の力になったのだと思う。入学してからがまた大変だとは思うが、今の息子ならきっと大丈夫だろう。自分の心に火をつけるものと、これからたくさん出会っていってほしい。その度に大きく成長していけるにちがいないから。

最後になりましたが、親も半ば諦めの気持ちで一杯だったなか、最後まで息子を鼓舞し、導いて下さった先生方、本当にありがとうございました。