彼は私の後輩になりました
彼は五年生の春、「私立に行きたい。」と急に言いだしました。私が私立中学出身というのもあり、以前からアドバイスはしていました。理由を聞くと「自分には将来なりたい夢がない。だから学校のレベルを上げたい。六年間将来の夢をゆっくり考えたい。」と言いました。
学校の成績が悪かったわけではありません。ですから塾へ行ってある程度勉強すれば合格するだろうと、私も本人も考えていました。現実は私の時代とは全く違っていました。私立中学への受験がこんなにも過酷なものとは思いませんでした。
忘れもしない、最初の実力テスト、成績は惨憺たるものでした。本人もショックだったと思います。しかしその悔しさを結果につなげられないまま五年生も終わりに近づいてきます。正直もうやめさせた方がよいか?と考えたこともあります。
しかし彼は春休み頃から変わって来ます。きっとターミナル校での春期講習、テストゼミで多くの受験生を目の当たりにしたことから、何か刺激をうけたのでしょう。少しずつですが成績を上げていきます。そして夏を迎えたとき、彼に夢が出来ました。
「僕は教師になりたい。」と言いました。きっかけはよくわかりません。私の推測ですが、夏に彼の祖母が亡くなった時ではないかと思っています。彼にとっては急死であったためか大変ショックな出来事であったと思います。
そんなとき名進研の先生から「大丈夫か?」と声をかけてもらった一言がすごく嬉しかったと言っていました。きっと、自分もそんな、生徒を救ってやれるような先生になりたいと思ったのでしょう。
彼にとって一番不足していたのは、何のために勉強するのか?という目的ではなかったのかと思います。
各学校説明会、私立中学フェアを通じ、私を教えてくれた先生達とお会いして、彼は第一志望という、また一つ明確な目的を見つけます。
それから六年後期、目的に向かってマイペースながら努力を続けていきました。やっと努力が結果に結びつき、合格ラインが見えてきたのです。
志望校受験前日、教科書、ノートを積み上げると彼の背丈近くになりました。笑いながら写真をとり、もう全部やり切ったと、当日を迎えることが出来ました。
この中学受験の約二十ケ月で労力だけでなく、人間として大きく成長したと感じています。
入試最終日「何か終わってしまうのがさみしい。」と余力のある発言で、彼の受験は終わりました。
結果は合格、彼は私の後輩になりました。












