十一ケ月と五日
夫の仕事の関係で長年住んだ北陸を離れ、地元愛知に戻ってきたのは、息子が五年生の二学期のことでした。以前は国立の附属小学校に通っておりましたが、愛知では公立に通わせるつもりで何の準備もしておりませんでした。集団の塾が苦手で、小学校のペースに合わせた個別指導の塾に少し通っていました。
ところが明日から冬休みという日、突然息子が中学受験をしたいと言い耳を疑いました。私は残り一年では無理と言い、そのうち熱が冷めるだろうと年明けまで待ちました。しかし息子の気持ちは変わりませんでした。本気でした。夫は断然、公立志向で中学受験には反対の考えを持っておりましたが、息子の意志を尊重することに決めました。希望の校舎はすでに定員がいっぱいでしたが、しばらくして空きができたと御連絡頂き入会できました。これが運命でした。
三月一日、いざ受験勉強を始めてみれば驚きの連続でした。私も何十年か前に名古屋の中学受験を経験しましたが、それとは全く別物。カリキュラムと宿題の量の多さに驚き、ついていくだけで精一杯でした。常に私の心にあったのは、息子はスタートが遅いから勉強は遅れている、ということでした。そこで毎週社会のテキストをコピーし、その週に学習する単元を私自身も予習をして、お迎えのわずか十分程の車内で息子に問題を出していました。後期には理科もしていました(息子は嫌だったかもしれません)。
当たり前ですが、プレ中学入試のたびに知らないことが多いと分かり(特に理科)、②テキストを購入して後期からは一日一問を隙間時間に解かせました。理解していない又は覚えていない単元が出てくるたびにテキストをコピーしたり紙に表を書いたりして壁に貼りました。壁がいっぱいになるとドアに貼り、まるで暖簾のようになりました。これは本来息子がするべきことですが余裕も時間もなく無理でした。時間が足りない、受験をすると分かっていればもっと早く愛知に戻ってきたのに、といつも思っていました。
第一回のプレ中学入試では志望校より10以上も偏差値が低かったです。ところが第二回で成績が上がりJSクラスに進むことができました。その後夏休みも息子なりに一生懸命勉強していましたが、遊びの誘惑は多々ありなかなか思うように成績は伸びませんでした。夏休み半ばにはゲーム機を封印し、九月にはスマホのゲームもしないと決めました。それは入試が終わるまで守りました。息子は偉かったと思います。
十月にまた少し成績が上がりましたが志望校には危うい感じでした。その後さらに大変でした。志望校別プレ入試も始まり、すべきことが多くて必死でした。成績がよくないことが多くて、このままで俺は受かるのかと嘆くこともありました。
十二月のある日、もう塾をやめたいと言い部屋に閉じこもりました。それまでにも何度か言ったことはありましたが、このように閉じこもる程のことは初めてでした。「せっかく十ケ月頑張ったのだからもう少しやってみよう。お母さんは信じているから。」と何とか励まして、その日は遅刻して塾へ行きました。
しかし努力は裏切りませんでした。その直後の滝中プレ入試で合格率80%をとることができました。それまでは先の見えない暗黒の中にいる感じでしたが、一筋の光が差した気がしました。息子はまだ合格したわけでもないのに大声でこの結果を喜びました。それからわずか一ケ月半でしたが全力で勉強できたと思います。
第一志望にはあと一歩届きませんでしたが、合格した学校は縁があるのだと思います。このような立場で恐縮ですが私の思うことを書かせて頂きます。
息子は毎週日曜日のテストゼミを受けてクラスアップしていったことが合格につながったと思います。六年生入会の三月にKS4からスタートし、TN2で終わりました。名進研のカリキュラムは大変でしたが、名進研でなければたった一年弱で合格はしなかったと思います。先生方はとても熱心で、息子の勉強面のみではなく精神面も支えてくださいました。
息子は理科が苦手でずっと成績がよくなかったのですが、入試直前の十二月と一月あたりで悪くない点数を取るようになりました。国語も同じです。直前まで伸びると思います。
正月特訓教室は息子にとってとても有意義なものだったようです。しかしマスクをしていなかったせいでしょうか、直後にインフルエンザにかかってしまい最後のプレ中学入試が受けられませんでした。マスクはした方が良いと思います。
十二月から一月にかけての模試や入試をできる限り受けてよかったと思います。試験に慣れることはもちろん、本番の試験に着ていく服装や必要な持ち物を決められます。普段は寒がらない息子ですが、早朝、滝中学校へ向かう際はガタガタと寒がりました。どの中学校も教室内は暖かいようですが、外気温は名古屋市内の学校とは違うのかと思います。
直前期は健康管理には気をつけました。食事は普段通りを心がけました。入試当日の朝食は特別にせず、いつものようにしました。つい食べ過ぎてお腹をこわさないためです。
私にはできませんでしたが、母親は子供に常に明るく接し、どんな時でも前向きな言葉をかけるとよいでしょう。その方がやる気が出ます。
受験勉強期間十一ケ月と五日、本当にいろいろな事が起こりました。受験において勉強期間が短いことは不利なことばかりでした。しかしこれからは有利に働きます。息子にはまだ余力があります。中学生活で大いに発揮してほしいです。
受験を通じて息子は本当に成長しました。学力のみでなく精神的に逞しくなりました。何より、誰に勧められた訳でもなく自分から受験をしたいと言い出し飛び込んでいったその勇気と強さ‼息子の体だけでなく心の大きさを誇りに思います。
最後に名進研の先生方には本当にお世話になりました。貴重な経験をさせて頂きました。お礼申し上げます。












